2月28日の対イラン軍事作戦から約1ヶ月半。4月12日にはイスラマバードでの和平交渉が決裂し、トランプ大統領はホルムズ海峡の海上封鎖を宣言しました(CBS News)。原油は$60台から$95前後へ約5割上昇 ── ガソリン・光熱費への波及も始まっていますが、本当の供給ショックはまだ来ていません。公開データとアナリストの分析をもとに、備蓄がいつ尽き、原油価格がいつ次の急騰局面を迎えるのかを予測します。
供給ギャップの全体像 ── 足りないのは日量1,100万バレル
ホルムズ海峡は平時に日量約2,000万バレルの原油が通過する世界最大のチョークポイントです(EIA)。陸路のパイプラインによる迂回手段を考慮しても、日量1,100万バレル ── 世界の石油供給の約1割が不足します。
| 供給の内訳 | 日量(百万バレル) | 備考 |
|---|---|---|
| ホルムズ海峡 通常通過量 | ~20 | 世界の海上原油輸送の約20% |
| 迂回手段(パイプライン) | ||
| サウジ東西パイプライン(ヤンブー向け) | 5〜7 | 3/28に日量700万バレルに到達(Fortune) |
| UAE ADCOPパイプライン(フジャイラ向け) | 1.5〜1.8 | |
| イラク→トルコ セイハンパイプライン | 0.3 | 能力限定的 |
| パイプライン合計 | ~9 | |
| 純供給ギャップ(迂回不能分) | ~11 | 世界供給の約11%が消失 |
この日量1,100万バレルの不足分を埋めるのが、備蓄放出とOPEC余剰生産能力です。しかし、どちらにも限りがあります。
備蓄放出 ── 史上最大の放出でも「20日分」
3月11日、IEA加盟32カ国は史上最大の4億バレルの協調備蓄放出を決定しました(IEA)。しかし、この数字の意味を冷静に見る必要があります。
4億バレルの正体
※ 何日分の供給に相当するかは、分母の取り方で大きく変わります。
- 世界全体の消費量(日量約1億バレル)で割ると → わずか4日分
- ホルムズ途絶量(日量2,000万バレル)で割ると → 約20日分
- IEA加盟国の備蓄総量(約12.5億バレル)の33%を放出
- 米国だけでSPR残高4.15億バレルの41%にあたる1.72億バレルを放出
各国の備蓄と枯渇タイミング
| 国・地域 | 備蓄量 | 放出ペース | 枯渇の目安 |
|---|---|---|---|
| 米国SPR | 4.15億バレル(うち1.72億放出) | 日量140万バレル/120日間 | 7月上旬 |
| 日本 | 230日分(4/6時点、官民合計) | 計70日分を2段階で放出(日経) | 第1弾4月末、第2弾5〜6月 |
| 中国 | 推定約12億バレル(非公開) | 中東輸入の約5ヶ月分 | 8月頃 |
| IEA 32カ国合計 | 約12.5億バレル(うち4億放出) | 日量330万バレル/120日間 | 7月上旬(放出分) |
Kpler(コモディティ貨物追跡・貿易データ分析の世界的大手)の分析(4/7時点)によると、市場はすでに日量約600万バレルのペースで在庫を取り崩しています。備蓄放出の限界が近づけば、このギャップは日量1,000〜1,100万バレルに拡大するリスクがあります(Kpler)。
OPEC余剰生産能力 ── もう一つの限界
OPECの余剰生産能力は日量400〜500万バレルと推定されていますが、この数字にも注意が必要です。
- 余剰能力の大部分はサウジアラビアとUAEに集中 ── まさに封鎖の当事国
- サウジは東西パイプライン経由で日量700万バレルまで出荷を増やしたが、パイプライン容量が上限
- イラク南部の生産は封鎖開始後に70%以上減少(日量430万→130万バレル、Wikipedia)
- 生産できても「出荷できない」── これがホルムズ封鎖の本質
供給ショックの3段階
以上の情報を統合すると、供給ショックは一度に来るのではなく、段階的に深刻化する構造が見えます。
| フェーズ | 時期 | 状況 | 原油価格の目安 |
|---|---|---|---|
| 1. 備蓄バッファー期 | 3月〜5月上旬 | IEA備蓄放出+OPEC増産+パイプライン迂回で日量3〜4百万バレルのギャップを吸収。市場は「まだ持つ」と判断 | $95〜115 |
| 2. 備蓄枯渇期 | 5月〜7月 | 日本等アジア主要国の放出分が枯渇(5月)。IEA放出枠の残りが急減。ギャップが日量5〜6百万バレルに拡大 | $120〜150 |
| 3. 純供給危機 | 7月以降 | IEA/SPR放出完了。備蓄なしで需給を合わせるには需要破壊(景気後退による消費減)が必要 | $150〜200+ |
アナリストの見立て
| 機関 | 予測 |
|---|---|
| EIA(米エネルギー情報局) | Brent 2Q26にピーク$115、4Q26に$88(封鎖の段階的緩和を前提、STEO 4月号) |
| Goldman Sachs | 封鎖がもう1ヶ月続けばBrent年間$100超。Q3に$120(Benzinga) |
| JP Morgan | 5月中旬まで封鎖ならBrent$150に向けてオーバーシュート(TheStreet) |
| Rystad Energy | 2ヶ月の戦争で4月Brent$110。4ヶ月なら6月に$135 |
| Macquarie | 6月まで封鎖ならBrent$200超の確率40% |
| Kpler | 需給均衡には$160〜170が必要と試算(Kpler) |
| Onyx Capital | 米国の海上封鎖で$150超(Bloomberg) |
本日(4/13)の海上封鎖宣言が変えたもの
トランプ大統領は4月12日、「国際水域においてイランに通行料を支払ったすべての船舶を捜索・阻止するよう米海軍に命じた」と宣言しました(日経新聞)。CENTCOMは4月13日からの封鎖実施を発表しています。
これが供給ショックのタイムラインに与える影響は大きい。封鎖開始以降、一部の船舶はイランに1隻あたり約200万ドルの「通行料」を支払って海峡を通過していました(Newsweek)。この「灰色の抜け道」が米国によって塞がれたことで:
- 封鎖解除シナリオが後退 ── 4/12の交渉決裂+米国の対抗封鎖で、短期解決の見通しがさらに遠のいた
- 上記タイムラインの前倒しリスク ── 通行料経由で細々と流れていた原油が完全に止まれば、備蓄の取り崩しペースが加速する
- フェーズ2への移行が早まる可能性 ── 5月を待たずに「備蓄枯渇期」の兆候が出始める可能性
封鎖が解除される場合のシナリオ
すべてが悪化するわけではありません。封鎖が解除されるシナリオも整理しておきます。
- 1ヶ月以内の解除: 原油は封鎖前の$60台に急速に回帰。戦争プレミアムが剥落し、備蓄を再び積み増すフェーズに入る。EIA予測ではBrent 2027年に$76。
- 3ヶ月以内の段階的解除: 原油は$75〜85程度に緩やかに下落。備蓄の回復には時間がかかり、リスクプレミアムが残る。
- 部分的解除(非イラン港のみ再開): CENTCOMは「非イラン港向け船舶の通航は妨げない」と明確化しており(CNN)、この形での部分正常化が最も現実的。ただしイラン産原油は引き続き市場から消失。
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